水の温まり方を見る
新素材の活用による自然対流の温度変化および水の動きの可視化
1 はじめに
第4学年の「物の温まり方と温度」の単元には「水や空気は熱せられた部分が移動して全体があたたまること」という学習内容がある。ここでは,現象観察物・容器の形状・加熱法という視点にたち,水の温まり方を,「水の動き」と「温度変化」の双方から関連づけて考えることができる対流実験水槽の製作を行う。
2 製作方法
(1) 現象観察物について
ア ゲルの製作
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図1 製作したゲル |
水の密度0.99984とよく似た密度である紙おむつに使われている高分子吸水材が吸水して形成されるゲルに着目し次の手順で製作をした。
(ア)紙おむつから高分子吸水材を取り出す
・紙おむつを外側から切り裂き,高分子吸水材を張り付けた綿状パルプを取り出す。下に,新聞紙を敷き表面を手でこす高分子吸材だけを落とす。
(イ)着色
水30gに少量のポスターカラーの蛍光レッドをよくとかし色素水をつくる。シャーレにいれた高分子吸水材2gに色素水を吸収させゲル化させる。この染料だとゲル自身を染色することができ色にじみがない。
イ 水の温まり方観察板の製作
水の温まり方を水槽内や試験管内等で調べる場合に,温度の高い部分や低い部分や水の移動に伴う熱の動きを視覚的にとらえるため,水の温まり方を探る段階での活用を想定している。また,空気の温度変化を調べるのにも活用ができる。
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図2 水の温まり方観察板 |
(ア) 準備物
・透明アクリル樹脂板(20mm ×200mm×1mm)1枚
・液晶シート (10mm×100mm)2枚
(イ) 製作
透明アクリル樹脂板に液晶シートを2枚を縦に貼り付ける。
(2) 対流実験用水槽について
着色したゲルを静かに熱源近くにたらしてその動きを観察した結果,円柱形容器では水面によって水が壁面に当たって複雑な流れを作る。しかし,角型の場合には水平方向に帯状に移動し対流を観察しやすい。ここでは,時間がかからず水温の変化がみられる適切な容器の深さと幅を調べ実際に製作した。
ア 準備物
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図3 部品 |
・透明アクリル樹脂板(150mm×160mm×3mm)1枚 基盤
・透明アクリル樹脂板 (150mm×110mm×3mm)1枚 側板
・透明アクリル樹脂板 (40mm×110mm×3mm)1枚 底板
・透明アクリル樹脂板 (60mm×110mm×3mm)1枚 蓋
・透明アクリル樹脂板 (30mm×25mm×3mm)1枚 仕切板
イ 製作
(ア) 本体の製作では基盤150mm×160mm×3mmの透明アクリル樹脂板を図1のように両端から30
mm入ったところにVカッターで90度・深さ1mmの溝を入れまげる。
(イ) 溝の部分を折り曲げ,その後,側板・底板を接着する。
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図4 本体の部分図 |
(ウ)蓋の部分の製作では,60mm×110mm×3mmの透明アクリル樹脂板に図2のように両端から10mm入ったところにVカッターで90度・深さ1mmの溝を入れまげる。
(エ)導線固定のための直径8mmの穴を図2のようにドリルであける。
(オ)水の温まり方観察板を挿入するために,図2のように長さ24mm幅3mmの十字型を糸鋸で切り取る。
(カ)仕切板をつける。仕切板の縦の長さを30mmとしたのは,導線を通したストローを固定するのに適しているからである。
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図5 蓋の部分図 |
(3) 加熱部分の作製について
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図6 加熱部分 |
ニクロム線を水中に入れて加熱すると熱源が一点に集中して対流が見やすい。さらに改良をして,対流が観察しやすいようにニクロム線の形状を工夫した。
ア 準備物
・導線(50cm)・・・2本 ・ニクロム線(30cm)・・・1本 ・折れ曲がりストロー・・・・2本(固定のため)
イ 製作
ニクロム線をコイル状に巻き,中心部をひっぱり馬蹄形にしたものを導線にハンダ付けし,折れ曲がりストローに導線を通し蓋に取り付ける。ニクロム線の形状を馬蹄形にするとゲルの動きが活発になり観察しやすい。
3 実験
対流実験用水槽に入れる水の量は320ccとし,ゲルを1.3g入れて実験をする。このとき,水の深さは12cmとなる。10V6Aで加熱する。この水の深さだと,時間がかからず水温の変化が見られる。また,加熱と同時に対流がはじまり,あわの上昇とゆらぎがみられる。ゆらぎに押し上げられるようにゲルが小さな粒状になって上昇し始める。水面近くまでいくと水の移動に乗って水平方向へ,そして,反対側の側面に沿って下降し再び加熱部分へと動きゲルの動きを通して,水の対流の様子を鮮明にみることができる。
水の動きに対応し,液晶シートを使用した観察板も約4分ほどで上部から変色をはじめ約8分後には水槽最下部まで変色する。(はじめの水温が15度の場合)
また,試験管に水を入れ熱する実験に液晶シート観察板を入れて実験すると上部から変色していく様子が鮮明にわかる。
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図7 対流実験用水槽による観察 |
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図8 試験管での観察 |
新素材の特性
(a) 液晶素材の特性
・温度により黒から赤・・緑・・青・・紫・・黒と色変化を示す。
・熱容量が小さく,わずかな温度変化も表示できる。
・色変化は可逆性に富み,繰り返し使用できる。
・発色が鮮やかで,解像度が高い。
・扱いが簡単で,専門的な技術や知識を必要とせず,児童でも手軽に使用できる。
(b) 高分子吸水材の特性
・自重の数百倍から千倍も水を吸収しゼリー状に固め,しぼっても水をはきださない。
4 授業実践
第4学年理科学習指導計画案
1.単元名 「物のあたたまり方」
2.単元目標
金属,水および空気のあたたまり方を身の回りの現象と関連づけながら金属は,熱せられた部
分から順にあたたまるということや水及び空気は,熱せられた部分が上に移動して全体があたた
まるということを実験を通してとらえることができるようにする。
3.単元の指導計画(総時数10時間)
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小 単元 |
時数 |
学習活動・学習内容 |
教材 |
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金属の温まり方3時間 |
1 |
みんなで輪切りウインナーを焼いてみよう 金属は熱した所から端まで順々に温まりそうだ |
線入りステンレス板 輪切りウインナー |
2
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他の金属でも,金属は熱したところから順にあたたまるのだろうか。 金属は,熱したところから順にあたたまっていく。 |
アルミ板・目盛り付銅板 切り込み入り銅板・銅棒 サーモテープ・液晶シート |
水の温まり方
3時間
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1 |
水は金属のようにあたためたところから順に全体にあたたまるのだろうか。 水は金属と違い,上の方からあたたまる。 |
30mm試験管・水の温まり方観察板・対流実験用水槽 |
2 本時 |
水が上の方から先にあたたまるのはどうしてだろう。
水は,あたためた部分が上昇し,かわりにつめたい水が下がってきて次々にあたためられて全体に温度が上がっていく。 |
対流実験用水槽・水の温まり方観察板・ゲル・30mm試験管・三層水槽・水の温まり方のモデル・温められた水の説明モデル |
空気の温まり方1時間 |
1
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空気は全体がどのようにあたたまるのだろうか。 空気は,水と同じようなあたたまり方をする。 物をあたためるとやがて全体があたたまるがあたたまり方は物によって違うようだ。 |
空気の対流観察水槽・段ボール実験装置
・水の温まり方観察板
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ものづくり3時間 |
3
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「熱伝導」や「熱対流」を利用しておもちゃを作ろう。
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4.本時の学習
- 主題「水のあたたまり方」(第二次 第5時)
- 本時の目標
水の動きを調べる活動を通して, 水はあたためた部分が上昇しかわりにつめたい水が下がってきて次 々にあたためられて全体に温度が上がっていくということがわかる。
- 準備物
高分子吸水材(紙おむつ),対流実験水槽,電源装置,薬さじ,アクリル絵の具蛍光レッド,水の温
まり方観察板,液晶シート(26度より36度に反応),30mm試験管,三層水槽,モデル等
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5 授業の実際
実際に授業で試みたところ,子供たちには大好評であった。適量の高分子吸水材に色水を吸水させてゲル化する段階を見せてやると,少量の粉が水を吸収していく様子には大変な驚きをしめし,興味・関心は高まった。液晶シートの温度による色の変化にも大変興味を示した。その関心の対象であるゲルや液晶シートを用いての実験を進めることにより,子供たちは期待をもって実験に臨めた。
この実験方法だと,水の対流の様子が実験開始後ダイナミックにすぐに見られる。しかも,角形の水槽なので水をニクロム線で直接熱することにより,対流によるゲルの動きが水平方向に帯状に起こる。あわは上昇したままだが,上昇流からはずれたゲルは落ちていく様子が鮮明である。また,何度か対流が繰り返されるに従って液晶シートの色が水面から変わってくるなど,時間経過に伴う対流の様子と温度変化を的確に視覚的にとらえることができる。何度も繰り返して実験をすることができるため,思考の深まりがみられた。スイッチを切った後のゲルの状態と液晶シートの色の変化など,逆の観察もできていた。この実験の後ある班は「試験管の中でも対流がおこっているのか」ということを確かめるため,試験管に液晶シートとゲルを入れ実験していた。そして,その班は試験管の中でも対流が起こることを確認し容器の形状がちがっても対流は起きて水面からあたたまるということを確認した。観察の過程で水槽より激しい対流であることはどうしてかということを話し合い,水の量が少ないことを見つけだした。
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図9対流実験の様子 |
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図10 試験管での確かめ実験 |
話し合いの流れ
現象の確認
- スイッチをいれると,ニクロム線にいっぱい泡がついてあわが上に上がって水面を横のほうに動いていく。あわは下りてこない。
- ニクロム線で温められた水はゆらゆらして,勢いよく上に上っていった。それとゆらゆらとした物に押し上げられ赤いつぶが上へいって水面までいくと横に動いてゆらゆらとした流れからはずれておりてくる。液晶シートの所まで,あわとゆらゆらした温められた水が到着すると液晶シートの色が水面から下の方に変わってくる。
- 電源を切って水をあたためるのをやめると,ゆらゆらとした物も消えて赤いつぶは下りてくる。
児童の推論
- 温められた水(ゆらゆらした水)が上へ上がって,かわりに冷たい水が下りてきて次々に繰り返して全体があたたまるのかな。
児童の疑問
- どうして,温められた水は上に上がって,冷たい水はおりてくるのだろうか。このような結果にたどりついた子供たちは「温かい水と冷たい水の重さがちがうのかな。」という問 題を持つようになる。実際の実験結果からこの推測はできるのだがどうも府におちないようである。そこで,温度差によって水が三層に分かれる三層水槽で実験することにした。この実験により子供たちは,「やっぱり温かい水はかるくてつめたい水は思いんだ。だからあたためられた水は軽くなって上にいってかわりに上にあったつめたい水は重いので下に沈むのか。」「あたためられた水が動いて赤い粒が一緒に動くのか。水は金属と温まり方が違うのか。」と驚きを持って学習できた。そして水の温まり方のモデルを提示したことにより理解は深まった。
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図11三層水槽の実験 |
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図12水の温まり方のモデル |
この後,まとめの段階で,16名中8名の児童が対流実験水槽でのニクロム線から出た「あわやゆらぎ」は温められた水であるが「どうして水を温めると軽くなり,冷たい水は重いのか」という疑問を持った。現象として水の温まり方は理解したものの,対流が起こる原因に疑問をもった。そうなると,対流の原因は,熱せられた水が膨張することにより密度が低下し,その上方の熱せられていない水に比べ,軽くなるという密度差により生じる浮力が原因であるということを知らせてやらないとならない。実際密度は中学1年での「状態変化と物質の密度」という単元で学習する。そこで,中学1年生の内容を吟味し,単位の導入などはやめ小学4年生の発達段階に応じた説明をモデルを使い試みた。同じかさの中に入っている粒が熱っせられることにより運動が激しくなり飛び出してかさが増える。けれど,かさが増えるだけで粒の数は変わらない。すると同じかさに入っている粒の数は温める前の半分になり,下の方が軽くなってこれではぐらぐらと不安定であるために重いものがおりてきて軽い物が浮き上がる。という説明をモデルを使ってしたところ,子供たちは「水って目に見えない粒でできているのか。それが温められると熱い熱いといってあばれだしてかさが増えて軽くなるのか」と大変おどろき興味を持っていた。このものの見方は,次の空気の温まり方でも大いに役立った。空気の温まり方の実験をして,空気は水と同じ説明ができると実感し,関連を持って理解することができた。そして「金属は,固くて動かないから温めたところから順々に温まっていくけれど,水や空気は粒が動くから温められるとかさが増えて軽くなって上にいって,かわりに冷たい水や空気は重たいので下に下りてきて次々にあたためられて全体が温まっていくのか。」というまとめができた。
6 考察
昨年の実践でも対流の実験をしたが,主体的な観察・実験が不十分だったので,今回のような「どうして水を温めると軽くなり,冷たい水は重いのか」という深い思考に至らなかった。今回は,現象が鮮明に観察できることと,繰り返し実験できることが子供の思考を深めたように思う。学習指導要領の目標は「金属は熱せられた部分から順に温まるが,水や空気は熱せられた部分が移動して全体があたたまることがわかる」である。つまり,三層実験・水の温まり方のモデルの提示をまとめにすれば良いのだが,子供の新たな興味・関心は対流の起こる原因に変化した。そのため,本実践では,水を温めたときの性質である体積膨張に伴う低密度という現象を分子のモデルで指導した。すると,現学習だけでなく前学習の「金属,水および空気の温度変化とかさの関係」もより鮮明につながりを持って理解することができた。子供にとって密度・分子という概念の導入は難しいと思っていたが,熱による分子の運動を教えることにより今まで現象のみを個々に理解していたことがつながったようである。この物の見方は,今後「物質の三態」・「水のゆくえ」の単元でも生きてくるとともに,中学校・高等学校での原子や分子等の粒子を基盤とした微視的な物質観へと発展するものと考える。
対流実験水槽をはじめとする教具の開発・授業実践を通して感じたことは,適切な教材を提示し主体的に学ばせることにより,子供は現象のみならずその本質に迫ってくるということである。そして,その糸口を掴んだとき,それぞれの現象を関連づけ理解することができるとともに,子供の興味・関心を持続させ「学びたい」という意欲を呼び起こすということであった。
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